先日『一投に賭ける』という本を紹介しました。
<全力でオススメする一冊>スーパーアスリートを感じよう ~ 『一投に賭ける』上原善広著

この本では、溝口和洋という規格外のやり投げ選手の世界を描いていますが、トレーニングや技術、身体についての考えには、常人には理解できないことがたくさんあります。

唯一無二の才能をもったスーパーアスリートの考えることが、「普通のひと」にわからないのは当たり前。彼の言葉のすべてを理解する必要はありません。

しかし、私はこの本の中に、記憶に残り忘れられない言葉があり、ときどき思い出してはその意味を考えます。今回は、その記憶に残る言葉について書いてみたいと思います。


「末端と末端がつながっていないから故障する」

それは溝口選手が選手の故障について語る「末端と末端がつながっていないから故障する」という言葉です。

もう少し詳しく見てみます。

この言葉は「デッドリフト」というウエイトトレーニングについての説明の中の一節で、次のようにつづきます。

手先とつま先がつながっていれば、腰は痛めない。一般的なフォームでも、痛めるときは大抵、この末端と末端がつながっていないときだ。

では、末端と末端つながるとはどういう意味かというと、

手首もグッと曲げて握る。デッドリフトは手首のトレーニングにもなる。さらに足の指はギュッと噛む感じでしめる。これで末端と末端つながる
簡単に言うと、耳や大胸筋を動かせる人がいるが、それは耳や大胸筋に神経回路ができているから可能なのだ。早い話がこれを全身の隅々にまで行きわたらせ、やり投げに応用していけば良い。

手先とつま先には常に力をいれて末端と末端の神経回路をつなげておく、そうすればケガをしないと溝口選手は言っているのです。


溝口選手の言葉が記憶に残った理由

 私はマラソンを始めてからというもの、膝や足首のケガ、腰痛などさまざまなスポーツ障害に悩まされてきました。 マラソンで自己ベストを出そうと一生懸命に練習しても、ケガをして1ヵ月を棒にふり、練習の成果は帳消しになってしまうことも。

ケガや病気で何度も練習を無駄にしたことがある私は、ケガについては人より敏感なのかもしれません。

また、私は本やネットで身体について研究することが好きで、「故障しないための工夫」に興味がありました。
つまり、この言葉から、身体のしくみについての何らかのヒントを得たかったのです。

たとえば、「末端と末端がつながる」ということは、その間にある身体パーツにも影響がありそうです。

もし手先と足先の神経がつながるのなら、その間にある体幹と手足の連動もスムーズになるかもしれません。手足の先に力を込めるだけで身体が連動するなら素晴らしいことです。


言葉どおりにをそのまま試してみると・・・

私は実際、この言葉を応用して手先と足先の神経回路をつなげるべく、手を強く握り、足の指に力を込めて走ってみました。
素直にこの言葉どおりにやってみました。

しかし、とくに変わった効果はありませんでした・・・

手先と足先に力が入っているという感覚はありますが、末端と末端がつながる感覚はなかったのです。走りについての影響は、特に見られません。手を強く握り、足の指に力を込めているだけ・・・

むしろ走りには逆効果
で、末端への意識が強くなりすぎて集中力が続かず疲れてしまうのでした。

その後も何度か試してみましたが、何かを身につけることはできませんでした。
私は文化系人間で、本来は運動神経がよい方ではありませんので、トップアスリートの感覚を体感することは難しいのかもしれません。


意味がわかっても理解できない言葉

このように、世の中には、言葉の意味はわかっても根本的に理解するのが難しいことがよくあります。
この言葉は私にとって「意味がわかっても理解できない言葉」だったのです。

この言葉は、意味が通じても中身がないものなのでしょうか?
溝口選手は日本人でありながら、欧米の巨漢の選手と互角に戦い、自分流で研究しながら持ち前の探求心と根性でハードトレーニングを続けて成果を挙げたひとです。

実際には何かあるのに、平凡な人間にはわからないというだけ
のことではないのか?

もしあまりにうさん臭かったら、心には残らないはずです。
この本を読んでから1年は過ぎていますが、まだひっかかっているということは、この言葉に何らかの真実がかくれていると思っています。

少なくとも溝口選手が何かを誤解して、このような言葉を残したとは思えません。おそらく、究極の身体に備わった感覚が、その真実をつかんだのでしょう。


つづく


●『一投に賭ける  溝口和洋、最後の無頼派アスリート』  上原善広著
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